大阪府議会令和4年(2022年)9月定例会、12月20日採決における
民主ネット大阪府議会議員団採決態度について
大阪府議会令和4年(2022年)9月定例会(後半)の諸議案に対する、民主ネット大阪府議会議員団の主だった採決態度ならびにその理由について、以下に説明する。本来これら主張は、本会議場の討論を通じてなされるべきものであるが、大阪府議会では5名以上からなる交渉会派でなければ、事実上本会議場での発言権がないため、このような形での意見表明とならざるを得ない。9月議会前半に続き、今回も閉会日に議員提出議案が提案されたが、質疑なし、委員会付託もなく、少数会派に発言の機会が与えられなかったことは極めて遺憾である。
【知事提出】議案36号 令和4年度大阪府一般会計補正予算(第9号)の件【反対】
今般提案された、総額483億3100万円に及ぶ補正予算は、府民生活にとって必要なものも多く含まれた予算であることは論を待たないが、真に必要な府民に届き、また大阪経済の再興に繋がる事業でなければならない。
特に、76億5千万円が計上された子ども(子育て世帯)への食料支援について、の問題点を指摘したい。国の地方創生臨時交付金を活用した事業であるが、対象人数が139万人ともされる18歳以下の全ての子どもに米10kgを配布することが、本当に今求められているのか疑問が残る。
長期化するコロナ禍の影響に加え、折からの円安・物価高騰対策として国からの臨時交付金が相次ぐが、その政策効果検証が十分になされているとは言い難い。現に本年実施された、府内18歳以下の子どもへの1万円相当のクオカードペイ配布事業では、有効期限を過ぎた未利用額は全て事業者の利益となるにも関わらず、その利用状況は「企業秘密」を理由に非公表とされ、検証出来ない状況になっている。今回はそのようなことは無いと思うが、議案提案にあたっての説明がわかりづらく、事業スキームが十分に確立されていない中、委員会付託も行われず、府議会として十分な審議を行っていない中、賛成することは出来ない。
もとより新型コロナ対応の地方創生臨時交付金や、今般の原油・物価高騰対策の緊急交付金など、国から自治体への予算の下ろし方にも大きな問題があるが、大阪府としても事業を実施するにあたっての検討が十分であったかは甚だ疑問である。特に直接物資を届けるような事業、子育て支援策は、地域の特性に応じ基礎自治体が行うことがより効果的とも考える。
奇しくもお米が配布されるのは来年3月である。選挙前の宣伝と取られかね無い事業も避けるべきである。
【議員提出】議案8号 いのち輝く人生のため「人生会議」を推進する条例制定の件【反対】
人生会議は、英語ではACP(事前医療・ケア計画)として知られているものに付けられた日本語の名称である。20世紀後半の米国では終末期の治療を患者が事前に指定するAD(事前指示)の作成が推奨されていたが、1990年代の研究では、事前指示書が実際の患者の治療方針に十分反映されていないということが明らかにされ、試行錯誤を経てACPという方法論に到達したものである。一般論としてACPを日本でも実施することは必ずしも悪いことではないとしても、米国での経緯を考えれば、患者のみならず、医療者の十全な理解がなければ、これが十分に機能しないことは明らかであろう。特に、米国では患者のカウンセリングにあたるような様々な医療支援職が存在しているのに対し、日本ではそれらの機能を担う専門職の体制が十分ではなく、忙しい中で医療者が時間を割いているのが実情である。単に条例を作るのではなく、病院や高齢者施設の実情を十分にヒアリングした上で、専門職の養成をどう持続的に行っていくかという議論が欠かせない。
特に、日本では欧米に比べて親族間の関係性が濃密であることが多く、患者が自己の尊厳を尊重され、経済や親族関係に左右されず、本人の自由意志に基づいた決断ができるか、またそれを専門職が十分に支援できるかということが懸念される。
専門家の適性ということについては慎重に検討を要する。我が国では近年、専門職や政治・行政に関わる人間の医療倫理を疑わせる事例が目立つように思われる。2016年の相模原障害者施設殺傷事件はその一例である。また、2019年に起こったALS患者嘱託殺人事件に関わった医師は高齢者殺人を教唆するような書籍を電子書籍で販売していた。こうした背景には、高齢者医療や長期医療が大きな国民負担になっているという社会認識がある。2019年には古市憲寿氏が文春オンライン上での対談で高齢者に対する「『最後の1カ月間の延命治療はやめませんか?』と提案すればいい」と発言し、論争を巻き起こした。2017年の衆議院選挙に日本維新の会から立候補した元アナウンサーの長谷川豊氏が2016年に公開したブログで「自業自得で人工透析になった患者の費用まで全額国負担でなければいけないのか」と述べていたことも話題を呼んだ。こうした世相を反映したといえるか、2018年には公立福生病院で医師が人工透析を中断したことにより患者が死に至り、遺族が病院を提訴した。2021年に和解が成立しているが、裁判所は患者にうつ病の症状がある中で、適正とは言えない形で治療中止に至っていることを認定している。こうした事例を考えれば、医師や政策立案者が、「患者の意思の尊重」という人生会議の大前提を尊重するだろう、という信頼感を抱ける状態にはない。
こういった生命倫理に関わる重要な条例案にもかかわらず、本会議での審議もなく、委員会付託や、また先行自治体で行っているパブリックコメントの実施すらない、採決する前提が整っているとは到底言えないものである。今回に限らず、この間の府議会における議員提案による政策条例の審議のあり方が、あまりにも乱暴である。
十分な審議がなされない、その前提すら共有できない中での条例制定は早計であることから賛成は出来ない。
以上
大阪府議会 民主ネット大阪府議会議員団
野々上 愛
山田けんた
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